鈴木章(2010年ノーベル化学賞受賞、北海道大学名誉教授),村上陽一郎(東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授)、長野敬(自治医科大学名誉教授), 小林善彦(東京大学名誉教授、フランス文学者、日仏会館顧問), 挨拶  池田忠生(日仏会館学術委員)

会場

日仏会館ホール

主催:  公益財団法人日仏会館、日仏医学会、日仏海洋学会、日仏工業技術会、日仏生物学会、日仏獣医学会、日仏農学会、日仏薬学会、日仏理工科会

 

後援: 渋谷区教育委員会、科学部門フランス政府給費留学生の会(ABSCIF)

 

環境問題、災害、感染症等など、現代社会が抱える問題は山積しています。この状況をいかに科学が善導するか問われています。今回の科学シンポジウムにおいて、科学がいかに社会の重要な役目を持つか。事態収拾における科学・技術による新たな発想の必要性。これまでの延長でない未来の新しい科学への模索。啓蒙思想家による学問・芸術の論争等を講演していただきます。そこから、自然はもとより社会の構築の道しるべを創造してください

 

 

プログラム

 

13 :00-13 :05

挨拶  池田忠生(日仏会館学術委員)

 

 

13 :05-14 :00

「人類の進歩に役立つ科学の例 〜有機ホウ素化合物を利用する有機合成」

鈴木 章 先生(2010年ノーベル化学賞受賞者、北海道大学名誉教授)

 

 

14 :05-15 :00

「科学・技術に未来を託せるか」

村上 陽一郎 先生(東京大学名誉教授)

 

 

*15 :10-16 :05

「科学技術への視点、「昔」と「今」」

長野 敬 先生(自治医科大学名誉教授)

 

 

16 :10-17 :05

「未来への信頼か、悲観か ヴォルテールとルソーの論争をいま試みる」

小林 善彦 先生(東京大学名誉教授、フランス文学者、日仏会館顧問)

 

 

17:15-18:00

綜合討論

 

 

*18 :00-19 :00

< 懇 談 Buffet amical >

 

 

 



 

 

プロフィールとレジュメ

 

「人類の進歩に役立つ科学の例〜有機ホウ素化合物を利用する有機合成」

鈴 木  章(北海道大学名誉教授)

2010年ノーベル化学賞受賞。「鈴木クロスカップリング反応」は、水に安定で毒性がないなど数々の長所によって高血圧治療薬や抗がん剤などの医薬品、農薬、液晶や有機ELディスプレイの製造など幅広い分野で利用されている。現在は、主に若者へサイエンスの素晴らしさを伝えるべく、世界中で講演活動を行っている。

 

科学の進歩が人類の未来に役立つことは多くの科学者が希望することであるが、その一例として我々の生活に重要な役目を持つ有機化合物の合成に容易に得られる有機ホウ素化合物が用いられることを幾つかの例を示し紹介したい。

有機化合物の合成には、炭素—炭素を結合させることが必要であるが、そのために用いられる有機金属化合物は活性が強く欠点が多い。一方有機ホウ素化合物は安定であるが、逆に反応性が弱く目的物を得られない。しかし、この化合物は塩基の存在下で容易に活性化することを発見した。その結果、この反応が多くの医薬、農薬、液晶、発光ダイオード等有用化合物の製造に利用されるようになった。

 

 

 

「科学・技術に未来を託せるか」

村上 陽一郎 (東京大学名誉教授)

1936年東京に生まれる。東京大学教養学部、大学院で科学史・科学哲学を学ぶ。上智大学理工学部助手、助教授、東京大学教養学部助教授、教授、同先端科学技術研究センター教授、センター長、国際基督教大学教授、東京理科大学教授などを経て、2010年から東洋英和女学院大学学長。ウィーン工科大学、北京人民大学などの招聘教授、日仏科学技術連絡委員会委員などを歴任。専門は、上掲のほか科学技術社会論(STS)など。

 

「3.11」以降、科学・技術に対する信頼が失われつつある。確かに、事故当時、事態の収拾に生命を賭した現場の人々に比して、社会との接点で対応した「専門家」の言動には、一般の信頼を失わせるに充分なものが多かったし、二年以上経った今日でも、事故の完全な修復には程遠い。しかし、科学・技術を無視した収拾や修復も、全く無意味であり、これを教訓に、科学・技術と社会との間のインターフェイスを、新たな発想の下で構築していくことが強く望まれる。国際的にも、そうした試みが芽生えて始めていることを報告し、今後の指針を論議したいと思う。

 

 

 

 

 

 

「科学技術への視点、「昔」と「今」」

長野 敬(自治医科大学名誉教授)

第一高等学校(旧制の最後ころ)から東京大学理学部(植物学科)、同大学院を経て、群馬大学医学部助手(生化学)、東京医科歯科大学助教授。昭和47年から自治医科大学教授(生物学)。

現在、自治医科大学名誉教授。河合文化教育研究所主任研究員。

著書、『生物学の騎手たち』(朝日選書)、『科学的方法とはなにか』(中公新書、共著)、『生命の起源論争』(講談社メチエ選書)、『生物の内景から』(筑摩書房)その他。

 

「科学の進歩と人類の未来」について、日仏会館創立の頃(昔)と現在(今)で見方は激変した。昔は、世界大戦(第一次)後の短い平和のもとで、人類の未来を科学技術に託する姿勢があった。しかし今、楽観論は少数派である。人間の生き方をW=P×Qと概括すれば(P:人口、Q:生活の質、W:環境への「負荷」)、昔はQの向上だけに関心を集めることが可能だった。今、世界大戦(第二次)後の世界の見直しのなかで、地球環境の有限さ(W=一定)が、痛感されてきた。この自覚をもたらした一因は、Qの向上に寄与した科学技術の「進歩」自体だった。ゆえに未来はこれまでの単なる延長線上でなく、違う方向に描かれねばならない。どのような方向か。

 

 

「未来への信頼か、悲観か  ヴォルテールとルソーの論争をいま省みる」

小林 善彦(東京大学名誉教授)

1927年東京生まれ。1952年東京大学文学部仏文学科卒業。東京大学名誉教授、日仏会館顧問 専門は18世紀の文学・思想. ヴォルテール、ルソーなど。

主な著書 『ルソーとその時代』1973、『パリ日本館だより』1979、『フランスの知恵と発想』1987、『フランス学入門』1991、『誇り高き市民』2001、『知の革命家ヴォルテール』2008など。

主な訳書 ルソー『不平等起源論』、『言語起源論』『告白』など。

 

今回のシンポジウムのテーマ「科学の進歩と人類の未来」を前にして、われわれは自然に原発事故を連想するのではないだろうか。確かに科学のお蔭でわれわれは、たとえば江戸時代とは比較にならない豊かで便利な生活を送っている。しかしまたひとたび間違えれば、人類の破滅の原因ともなりかねない。この問題を考える材料として、18世紀のフランスで起こった学問・芸術(artsは技術の意味をも含む)についての論争を紹介したい。学問・芸術の発展は人間を堕落させ、不幸にしてきたと主張したのはジャン=ジャック・ルソーであった。これに対していわゆる啓蒙思想家たち、とくにヴォルテールは人間の不幸は無知と偏見が原因で、それを救うのは学問と知識だという。そのいきさつについて話したい。