主催:(公財)日仏会館
映画「最初の人間」Le premier homme
原作:アルベール・カミュ
監督:ジャンニ・アメリオ
出演:ジャック・コルムリ、カトリーヌ・ソラ、ドゥニ・ポタリデス
上映時間 105分
2011年 フランス・イタリア・アルジェリア合作 配給 サジフィルムズ
(ザジフィルムズ公式サイトより)
「異邦人」「反抗的人間」等で知られるノーベル文学賞作家、アルベール・カミュ(1913-1960)は、46歳の若さで自動車事故のためこの世を去った。 その際にカバンから発見された執筆中の小説「最初の人間」は、30年以上の長い歳月を経て、1994年に未完のまま出版され、フランスで60万部を売り上げるベストセラーとなり、その後世界35か国で出版、大きな反響を呼んだ。 しかも、フランスに住む作家が、生まれ育ったアルジェリアに帰郷する、という設定は紛れもなく自伝であり、カミュの創作の原点を知る上で大きな事件であった。 2013年に迫った“カミュ生誕100年”を記念し、遂に映画化されたのが本作である。
1957年夏。作家コルムリは、今は老いた母が独りで暮らす、生まれ育った土地アルジェリアを訪れる。仏領のこの地は、独立を望むアルジェリア人とフランス人の間で激しい紛争が起こっていた。 そんな中でも、母はいつもと変わらぬ生活を続けており、息子の帰郷を喜んだ。地中海の青さも、あの頃のまま。いつしか心は、かつての少年の日に還って行く─。 父は若くして戦死し、厳しい境遇のなかで懸命に働きコルムリを育ててくれた母、厳格な祖母、気のいい叔父、彼らはみな文字が読めなかった。そんなコルムリを、文学の道にいざなってくれた恩師、アルジェリア人の同級生のこと…。 数々の思い出が彼の胸を去来するが、その一方で、現実の状況が、当時と大きくかけ離れてしまったことを目の当たりにしてゆく。
コルムリの旅は、アルジェリアの貧しい家庭に育った彼の複雑な生い立ちをたどる、自らの存在理由を確かめる旅でもあった。そのなかで、彼はフランス人とアルジェリア人の和解のために出来ることに思い悩む。 「最初の人間」という言葉は、最初にこの地に根を下ろしたとされるカミュの父や、厳しい環境に生まれた自身のことをさすと思われる。まっさらな中から生まれて、自分の力で成長してゆく人、ひいては誰もが、ひとつの国や民族に捉われない“新しい人間”として、この世界に生まれてきている、そのようにも語っているようだ。 他者との共存を願い、貧しい者や弱者に共感し、暴力による解決に否定的な立場を取り続けたカミュの願いは、今日の世界にそのまま通じ、その思いは本作にも熱く込められている。
今年はアルジェリア生まれのフランス人作家アルベール・カミュの生誕百年にあたります。第二次大戦中レジスタンスに参加、1942年に小説『異邦人』と哲学的エッセー『シジフォスの神話』でデビュー、『ペスト』『カリギュラ』『反抗的人間』など数多くの著作により1957年ノーベル文学賞を受賞、『最初の人間』を執筆中の1960年、自動車事故でまさに「不条理」の死を死んだカミュの生涯と文学を、映画『最初の人間』と海老坂武氏のトークで回顧します。
カミュとアルジェリアの複雑な関係を軸に描いた『最初の人間』は、昨年末に岩波ホールで上映されましたが、見逃した方にはまたとないチャンスです。サルトル研究で知られる海老坂氏はその盟友で論敵だったカミュにも詳しく、またアルジェリア独立のために戦った黒人精神科医フランツ・ファノンの評伝をものしていますから、カミュとアルジェリアについて語る最適任者です。