講演1 本賞受賞者 吉川順子氏(同志社大学嘱託講師)
「詩のジャポニスムと19世紀の美術批評」
〔講演内容〕ジュディット・ゴーチエは1860年代より極東を舞台に小説や戯曲を多く著しました。なかでも情熱を傾けたのが詩の翻訳で、『蜻蛉集』は西園寺公望が和歌の下訳を提供したことでも知られます。日本風挿絵、漢字の装飾、貫之や李白など古典詩歌の訳は、当時の東洋趣味を反映したものです。しかし、翻訳と創作の関係や、同時期に書いた芸術批評と照らし合わせると、それらの訳詩は自然の中の人間という普遍的問題の考察の上に成立したことが浮き彫りになります。作家の他の作品や同時代の文学・芸術をも巻き込んで深めうるこの問題について、今回は父テオフィルの挿絵入り散文作品『くつろいだ自然』をとりあげ、背後にある美術批評や自然史と、極東文化受容との接点を探っていきます。
受賞作『詩のジャポニスム--ジュディット・ゴーチエの自然と人間』京都大学学術出版会、2013
講演2 ルイ・ヴィトン特別賞受賞者 小島慎司氏(上智大学法学部准教授)
「日本における制度法学の受容」
〔講演内容〕下記拙著は,20世紀初めのフランスで制度(institution)の観念を用いて法学を革新したMaurice Hauriouの議論を,当時の社会的・学問的状況において分析したものです。こうした制度法学の発達は同時代の世界的現象で,1920-30年代の日本もそれと無縁ではいられませんでした(拙著・24頁注70を参照)。ところが,日本で制度法学と目された論者は,その後,ある者は戦時下の時流に棹さして戦後には社会的・学問的活躍の機会を失い,またある者は,戦後に亘って高いプレゼンスを保持し続けました。彼らが制度法学を通してともに見つめ改革しようとした昭和『日本』の姿が何であり,何が彼らの運命を分かったのか。報告では,こうした問題を扱ってみようと考えています。
受賞作『制度と自由--モーリス・オーリウによる修道会教育規制法律批判をめぐって』(岩波書店、2013。