川島瑞枝 (日本仏学史学会会員)、司会 西堀 昭(横浜国立大学名誉教授)

会場

日仏会館ホール

日本仏学史学会主催

 

日仏会館共催

 

 

わが国最初のフランス文学作品の翻訳は川島忠之助(1853〜1938)によるジュール・ヴェルヌ著『八十日間世界一周』である。1873年に出版された原典の翻訳が前編は1878年、後編は1880年の刊行だから、驚くべきスピードである。横須賀製鉄所付属黌舍第1回卒業生の川島忠之助は、この学校で身につけた高いフランス語力を買われ、富岡製糸場通訳官に抜擢された。その後、しばらくヘクト・リリアンタール商会に籍を置いた(『八十日間』前編の刊行はここに在籍していた明治11年のこと)あと、1882年に開設された横浜正金銀行リヨン事務所に支配人として派遣され、ここではとりわけ日本生糸の取引業務に辣腕を振るった。実業界における経歴の華々しさもさることながら、特筆すべきは翁の生涯が日仏両国の要路にたつ人物との幅広い交友関係に彩られていることである。

今回の講演は翁直系の孫川島瑞枝氏が、祖父の生涯を辿りながら、自宅に保管されている膨大な書簡及び写真から重要な何点かを選んで聴衆の皆様にご披露し、あわせて出会った人々に関する興味深いエピソードを紹介しようというものである。横須賀製鉄所設計者レオンス・ヴェルニー、富岡製糸場設立者ポール・ブリュナ、日仏生糸貿易を取り仕切ったリリアンタール商会のガイゼンハーメルなど重要人物たちとの間で交わされた貴重な書簡や、彼らとパリ、リヨン、香港などの地で再会を果たした際の様子は特に興味をそそられる話題であろう。また、忠之助は渡仏の際に、勝海舟からレオン・ロッシュ宛ての私信を託されたというエピソードがあり、この歴史上の人物らと翁とのつながりは聴く者の想像を刺激せずにはいないであろう。日仏両国の関係史には知られざる各種交流の蓄積が大量に眠っていることに気づかせてくれる講演となるに違いない。

 

 

 

 

講師プロフィール

1936年7月19日東京生まれ。早稲田大学第一文学部西洋史学科卒。

川島順平元早稲田大学教授(フランス文学)の長女。日本仏学史学会会員。著書に『我が祖父 川島忠之助の生涯』皓星社、2007年がある。

 

 

 

 

 

要旨

わが国のフランス文学翻訳の嚆矢、ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』の訳者川島忠之助(1853〜1938)は、文学のみならず、富岡製糸場通訳官や横浜正金銀行リヨン支店長を務めるなど様々な分野で才能を発揮した人であるが、生涯を通じて日仏両国の重要人物らと幅広い交友関係を結んだこともよく知られている。本講演は孫川島瑞枝氏が、祖父の生涯を語りつつ、所蔵する膨大な書簡や写真の一部を披露し、特に、横須賀製鉄所のL.ヴェルニー、富岡製糸場設立者P.ブリュナ、日仏生糸貿易の総帥リリアンタール商会のガイゼンハーメルなどとの交友の様子を紹介する。また、渡仏の際に、勝海舟からレオン・ロッシュ宛ての私信を託されたエピソードにも触れる。