太田悠介(日本学術振興会特別研究員PD)、永見瑞木(神奈川大学)、福田美雪(獨協大学)

会場

501会議室

定員

30

主催

(公財)日仏会館

今回の人文社会系セミナーは、太田悠介、永見瑞木、福田美雪の各氏をお招きし、それぞれの専門性を踏まえた研究成果や現在の関心のありかを、専門外の聴衆にもよくわかる語り口で話していただきます。
太田氏は、20世紀フランスを中心とする思想史を専門とし、バリバールの大衆論を扱った博士論文でパリ第8大学および東京外国語大学で博士号を取得しました。永見氏は、東京大学大学院法学政治学研究科で18世紀フランス政治思想を研究、コンドルセについての博士論文を書いています。福田氏は、パリ第3大学で博士号を取得、ゾラを中心とする19世紀フランス文学・自然主義文学を専門として研究を進めています。
哲学・思想・歴史・文学を横断しながら自由に討議する開かれた相互啓発の会にしたいと思います。ふるってご参加ください。それぞれの論者は発表が45分、討論15分を予定しています。

 

 

 

プログラム

14h00 開会


14h10 太田悠介(日本学術振興会特別研究員PD)
「共同体」論の奇妙な系譜―カール・シュミットからエティエンヌ・バリバールへ


15h10 休憩


15h20 永見瑞木(神奈川大学法学部非常勤講師)
コンドルセの政治秩序構想――地方議会から国民議会へ


16h20 休憩


16h30 福田美雪(獨協大学外国語学部フランス語学科専任講師)
時代を予見する文学者、エミール・ゾラ


17h30 閉会

 

 

太田悠介(おおた ゆうすけ)

日本学術振興会特別研究員PD。パリ第8 大学博士(哲学)および東京外国語大学博士(学術)。20世紀フランスを中心とする思想史。論文に「矛盾と暴力―エティエンヌ・バリバールの政治哲学序説」(『社会思想史研究』、藤原書店、第37 号、2013 年)。共訳書にジョルジョ・アガンベンほか『民主主義はいま?』(以文社、2011年)、ジョバンニ・アリギ『北京のアダム・スミス』(作品社、2011年)。「エティエンヌ・バリバールとカール・シュミット―共同体論をめぐって」:現代フランスの哲学者エティエンヌ・バリバール(1942-)の名は、処女作にしてルイ・アルチュセールとの共著作である『資本論を読む』(1965)によってまず知られる。しかし、フランス共産党を離れ、またアルチュセールの影響が薄れ始めた80年代からは、フランスにおけるマルクス主義の最良の遺産を受け継ぎつつ、独自の思想を展開している。本発表では「共同体」論という地平のもとで、その思想の射程をドイツの公法学者カール・シュミット(1888-1985)との対比を通じて、明らかにしたい。手がかりとするのは、シュミットの『リヴァイアサン―近代国家の生成と挫折』(1938)の遅ればせの仏訳が刊行された2002年に、バリバールが序文として執筆した長文の論稿「シュミットのホッブズ、ホッブズのシュミット」である。バリバールとシュミット、さらにはバリバールとスピノザという共同体論の思想史的系譜を辿り、最終的には2001年9.11以降の世界秩序の再編を視野に入れて書かれたこの論稿がもつ現代的意義にまで、踏み込んで考察したい。

 

 

永見瑞木(ながみ みずき)

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。現在、神奈川大学法学部非常勤講師。専門は政治学史、18世紀フランス政治思想。「コンドルセの政治秩序構想―地方議会から国民議会へ」:18世紀後半のフランスに生きた科学者、哲学者そして政治家であるコンドルセ(1743-1794)は、もっぱら楽観的でナイーヴな進歩観念の主唱者とて思い起こされるように、しばしばその最後の著作とされる『人間精神進歩史』をもって彼の思想の全体像と見なされがちである。本発表は、こうした一面的なコンドルセ理解を相対化することを念頭におきながら、革命期の著作(比較的知られるのは公教育論)や政治活動の陰であまり知られていない側面、すなわちコンドルセが革命前の1780年代後半から温めていた政治秩序構想に焦点をあてる。コンドルセがいかに同時代のアメリカ社会を一つの参照項としながら、それとは様々に条件の異なるフランス社会に向けた新しい政治秩序を構想していったのか。さらにそれは革命期の政治状況のなかでどう展開されたのか。彼のアメリカ論と地方議会論を中心に検討しながら明らかにしたい。

 

 

福田美雪(ふくだ みゆき)

パリ第三大学博士(文学)。現在、獨協大学外国語学部フランス語学科専任講師。最近の論文に、「19 世紀小説に描かれるオペラ座の観劇風景―バルザックからゾラまで」(獨協大学外国語学部、2015 年)。共著に『フランス文化読本』(丸善出版、2014年)、『教養としてのフランス近現代史』(ミネルヴァ書房、2015 年)ほか。「時代を予見する文学者、エミール・ゾラ」:近年、19世紀後半のフランス社会を多方面から観察した文学者として、ゾラの再評価が進んでいる。本発表では、「自然主義者」というレッテルをひとまずゾラから外し、ジャーナリスト・批評家・知識人としての多角的な活動を整理した上で、時代を「観察」するだけでなく「予見」する視点を、作家がいかにして養ったのかを探りたい。ゾラは、『ルーゴン=マッカール叢書』(1871-93)全20 巻において、時代の「崩壊」を強調するカタストロフィーで作品を締めくくってきた。しかし、最終巻『パスカル博士』(1893)を転機に、後期作品では来るべき新世紀への希望を謳う結末を選んでいる。この思想的な変化は、ドレフュス事件への作家のかかわりにも影響してくる。『パスカル博士』によって第二帝政の一大絵巻を完結させた晩年のゾラが、20世紀の共和国フランスが歩む道をどのように見通していたのかを考察したい。