翻訳と通訳は私の家族の生活でいつも特別な位置を占めてきた。私は子供の時から、母クラウディアがチェコ文学の有名無名な作家をフランス語に翻訳するのを見て育ったが、母は同時にパリの国際機関OECDに常勤通訳者としてつとめていた。母は二人の娘が自分の仕事を継ぐのを望んだわけではないが、姉はチェコ文学の翻訳を「相続」し、妹の私は日本語とフランス語の通訳者兼翻訳家になった。この講演では、プラハ・パリ・東京を結ぶこのメチエ継承の歴史をたどり、私たちの家業の実践についていささかの考察を試みてみたい。
カトリーヌ・アンスロー
1983年パリのINALCO(国立東洋言語文化研究大学)修士卒、東京在住30年、日仏会議通訳の第一線で活躍し、井上靖や遠藤周作、園地文子などの文芸翻訳も手がける。1998年丸谷才一『たった一人の反乱』の仏訳で野間文芸翻訳賞を、2015年芥川龍之介の短編集『馬の脚』の仏訳で小西財団の日仏文学翻訳賞を受賞した。