プログラム
挨拶 池田忠生(MFJ学術委員)
座長:浜崎浩子(北里大学教授)、池田忠生
1. 緒方博之(京都大学化学研究所・教授)
「遺伝子科学の昨今、生物学からのアプローチ」
2. 篠崎和子(東大大学院農学生命科学研究科植物分子生理学研究室教授)
「遺伝子組換え作物の現状と展望」
3. 武田伸一(国立精神・神経医療研究センター神経研究所所長)
「遺伝性筋疾患に対する治療法開発の現状と展望」
4. 戸崎晃明(公益財団法人競走馬理化学研究所遺伝子分析部専門役)
「競走馬のDNA ―その遺伝子に刻まれたもの―」
総合討論
18 :00-19 :00 < 懇親会>
緒方 博之 (京都大学化学研究所教授)
理学博士。1996年京都大学理学研究科を途中退学し、仏国国立科学研究センター(CNRS)に13年勤務。CNRS研究員、CNRS主任研究官を経て、2012年帰国。東京工業大学特任准教授を経て、2014年より現職。計算機により遺伝子の謎を解くバイオインフォマティクスを専門として、ウイルスの進化、生態系での存在意義について研究を進めている。趣味は、3人の息子と昆虫観察をすること。
「遺伝子科学の昨今、生物学からのアプローチ」
【要旨】皆様は「ウイルス」というとどのようなイメージをお持ちですか?恐ろしい病気の原因、抗生物質が効かない、どちらかと言えば化学物質。単純で悪いものという印象をもたれる方も多いかもしれません。しかし、ウイルスはこの世になくてはならないものかもしれない、控えめに言っても生態系でとても重要な役割を果たしているということが近年の遺伝子科学から明らかになっています。講演では、地球規模海洋プランクトン調査と遺伝子科学が明らかにしつつあるウイルスの進化と生態系での役割に関する最新の知見を提供したいと考えています。
篠崎和子(東大大学院農学生命科学研究科植物分子生理学研究室・教授)
理学博士。東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。国立遺伝学研究所、Rockefeller大学(米国)、理化学研究所、独立行政法人国際農林水産業研究センターを経て2004年から現職。専門は植物分子生物学。趣味は料理と園芸。
「遺伝子組換え作物の現状と展望」
【要旨】1994年に初めて遺伝子組換え作物が商品化されてから20年余りが過ぎ、その栽培は世界に広がりを示している。現在では世界28カ国で、我が国の全耕地面積の40倍ほどの耕作地で遺伝子組換え作物が栽培されており、世界の食料の安定的供給に大きく貢献している。さらに最近では、これまでの遺伝子組換え技術に代わる新しい植物の分子育種技術が開発され、利用が図られている。我が国は世界最大級の組換え作物の輸入大国であり、農作物の供給量や価格の安定化などの恩恵を得ている。しかし、国内の消費者は、依然として遺伝子組換え作物に対する懸念を持っており、我が国においては圃場での遺伝子組換え作物の商業栽培はいまだ行われていないのが現状である。
本講演では遺伝子組換え作物の作出の歴史やその原理、作出された組換え作物の安全性や生物多様性への影響、開発された遺伝子組換え作物の種類や世界における栽培状況、新しい分子育種技術や今後必要とされる遺伝子組換え作物の種類などを紹介する。さらに我々の研究室で取り組んでいる乾燥や極度の温度変化などに耐える環境ストレス耐性作物の開発に関する研究を合わせて紹介する。
武田 伸一(国立精神・神経医療研究センター神経研究所長)
1977年秋田大学医学部医学科卒業、1981年信州大学大学院博士課程修了(医学博士)、1984年信州大学第三内科(助手)勤務、1987年フランス・パリ・パストゥール研究所博士研究員、1992年国立精神・神経センター神経研究所室長、2000年同研究所遺伝子疾患治療研究部長、2008年トランスレーショナル・メディカルセンター長併任、2010年独立行政法人国立精神・神経医療研究センターに名称変更、トランスレーショナル・メディカルセンター長、神経研究所遺伝子疾患治療研究部長(併任)、2015年国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターに名称変更、神経研究所所長、神経研究所遺伝子疾患治療研究部長(併任)、現在に至る
「遺伝性筋疾患に対する治療法開発の現状と展望」
【要旨】希少性疾患の代表であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD) は、X-染色体連鎖性遺伝形式をとり、ジストロフィンの欠損を原因とする遺伝性筋疾患であるが、副腎皮質ステロイド剤の進行抑制効果が認められているものの、未だ筋変性・壊死を阻止する決定的な治療法はない。現在、最も注目されている治療法としてアンチセンス・オリゴヌクレオチド (AON) を用いたエクソン・スキップ誘導療法がある。
我々は、ジストロフィン遺伝子のイントロン6のスプライシング変異によりエクソン7が欠失し、ジストロフィンの発現を欠く筋ジストロフィー犬に対し、モルフォリノで合成したAONを投与した。その結果、ジストロフィン遺伝子のエクソン6と8のスキップにより、全身骨格筋でジストロフィンが発現し、骨格筋障害の進行が抑制されることを明らかにした (Yokota T, et al. Ann Neurol, 65: 667-676, 2009)。次に、企業と共同開発契約を結んだ上で、ジストロフィン遺伝子のエクソン53スキップを誘導する治療薬を創製し、医師主導治験に向けた準備を進めた。2013年6月に早期探索的臨床試験として開始し、大きな有害事象なく投与を終了することができた。本薬は2015年10月厚生労働省により「先駆け審査指定制度の対象品目」の一つとして選ばれ、本年初頭から、日本と米国において次相試験が開始されている。本講演ではこれまでに我々が取り組んできたDMDの臨床病態の解明に根差す治療研究と、これらの成果に基づいた治療薬開発の状況について概説する。
戸崎晃明(公益財団法人 競走馬理化学研究所 遺伝子分析部専門役)
昭和大学博士(薬学)、京都大学博士(農学)。競走馬理化学研究所に入所後は、「Horse Genome Project」に参画してウマゲノム解読研究に従事。また、公正な競馬施行を目的として遺伝子ドーピング問題に取り組み、国際競馬統括機関連盟の遺伝子ドーピング検討委員会委員を務める。昭和大学医学部兼任講師、岐阜大学客員獣医学系教授、内蒙古農業大学特聘教授などを兼務。2013年に日本ウマ科学会賞を受賞。
「競走馬のDNA−その遺伝子に刻まれたもの−」
【要旨】サラブレッド種は、およそ300年前に、東洋系の牡馬と英国在来の牝馬との交配に端を発し、厳格な血統管理の下、競馬による選抜育種を経て成立した品種である。そのため、サラブレッド種は、60km/hといった高速で数千メートルもの距離を走行できる。スピードやスタミナなどの能力は、強い馬のみが子孫を残せるという血の継承に、その理由がある。
では、このように受け継がれた血、いわゆる血統には、どのような秘密があるのか。最近、サラブレッド種の全ゲノム配列が解読されたことで、その一端が解明された。本講演では、血統論を中心に語られてきたサラブレッド種を、DNAの視点で再検証することで、その謎に迫る。