仏文系若手比較文学研究者のあいだで、戦争中に青春期を過ごした福永武彦(1918-79)、中村真一郎(1918-97)、 加藤周一(1919-2008)ら「マチネ・ポエティク」の作家研究が進んでいる。菅野昭正氏を基調講演者に迎え、戦後文学のマニフェスト『1946年・文学的考察』を検証し、ネルヴァルを翻訳した中村真一郎の『死の影の下に』から『四季』、ボードレールの翻訳者・福永武彦の『草の花』『忘却の河』『海市』『死の島』などの小説を、専門家の解説を手引きに読む(あるいは読み直す)機会にしたい。
本講座ではマチネの三人に、 仏文系で戦前最後にフランス留学した中村光夫(1911-88)をとりあげる。中村は1938年に渡仏し翌年戦争の勃発で帰国せざるを得なかったが、 貴重な滞仏記『戦争まで』を書き残し、1942年夏の「近代の超克」座談会で唯一まともな発言をした文学者として、加藤周一が「戦争と知識人」(1959)で高く評価している。
戦後留学が再開され1950年に最初に渡仏したのは、 中村光夫と同年生まれにもかかわらず大戦で留学機会を逸した森有正(1911-76)である。しかしこの講座では、 『沈黙』『深い河』などフランス語への翻訳が多く、 M.スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス』が今年公開された遠藤周作(1923-96)をとりあげる。遠藤はカトリックの留学生として森と同じ1950年に渡仏,、モーリヤックやサドを研究、リヨンでの滞在経験をもとに、レジスタンスの暗黒面を描いた『フォンスの井戸』を皮切りに『白い人』『青い小さな葡萄』など後の『留学』『海と毒薬』や『沈黙』(1966)につながる貴重な作品を残した。
小説『ある晴れた日に』や『抵抗の文学』を発表したあと、1951年に渡仏した加藤周一の西洋体験は自伝『続 羊の歌』(1968)に詳しいが、より直接的には小説『運命』(1956)になまなましい言葉で語られている。1955年の帰国直後に発表された「雑種文化論」は留学経験なしには書かれ得なかったが、よく誤解されるような「日本回帰」の書ではなく、文化的日本主義と西洋モデルの近代主義を共に批判した書である。戦争、留学、 恋愛、 キリスト教、 西洋と日本、そして文学が、 これらの作家に共通のテーマになるだろう。
プログラム
13:00 趣旨説明
三浦信孝(中央大学名誉教授、日仏会館)
13:30 基調講演
菅野昭正(日本芸術院、世田谷文学館館長)
14:10 鈴木貞美(日文研名誉教授, 文芸評論家)
テーマ 中村真一郎
14:40 質疑応答
15:10 休憩
15:30 西岡亜紀(立命館大学)
テーマ 福永武彦
16:00 岩津 航 (金沢大学)
テーマ 加藤周一
16:30富岡幸一郎(文芸評論家、 鎌倉文学館館長)
テーマ 遠藤周作
17:00 総括討論
18:00 懇親会
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