≪松尾芭蕉が提唱した『不易流行(ふえきりゅうこう)』という思想がある。「不易」とは、伝統や芸術の精神の根本は永遠に変わらないこと、「流行」とは、時代とともに新しく変化・進化するもののことだ。「イノベーション」は、正に、この不易流行がそのまま当てはまる概念だ。ところが、この「イノベーション」という単語は、人々が今や日常語にするほど濫用してきたため、その本来の意味がいつの間にかかき消されてしまっている。現在、メディアに氾濫するビッグデータ、AI、ディープラーニング、Industrial Internet、Industry 4.0、ネットとリアルの融合といったIoT時代における「流行」の部分としてのイノベーションと、16世紀に端を発するイノベーションとをつなぐ「不易」の部分とはどういう関係にあるのかという側面にスポットライトを当て、具体例を引用しつつ説明する。政治の世界とは一線を画するように、イノベーションに関しては、「自国主義」か、「国際主義」かといった矮小化された視点・視座は、はるか昔に過去のものとなっている。イノベーションの本質は21世紀におけるIoT時代にこそ、ビジネスのグローバル化の中核をなす必須要素としての役割を担っている。一方で、これまで、モノづくりの優秀さを梃子とした「プロダクト・アウト」のアプローチで実績を積み上げてきた日本企業は、熾烈なグローバル競争の波の中で試練を迎えている。また、グローバル化とは言いつつも、これまで米国偏重でやってきた日本に欠落しているのがヨーロッパの歴史観と知見であり、視座・視点だ。 農業や製造業で地殻変動を起こしつつあるメガトレンドを俯瞰すると明白になるが、既存事業のトランスフォーメーションや、国境を越えたM&A・ベンチャー投資に関して、これからの日本企業にとっては、非連続的なイノベーションを事業化する新たなビジネスモデルの設計が必須だ。そして、このとき、過去の延長線上での発想の枠を越えて、5年先、10年先、20年先の将来におけるアンメット・ニーズについての仮説を立て、そこから、現在へとバックキャスティングするアプローチなしには、日本企業のブレークスルーはおぼつかない。日本が保有するコンピタンスと、フランスやドイツを枢軸とするEUが保有するコンピタンスの相互補完性を利して、どのようなパートナーシップを仕掛けることができるかについてのシナリオ構築の方法を解説する。
プログラム
講演(19 :00 ~19 :45)
懇親・交流(20 :00 ~21 :00)
今北純一
1968年東大応用物理学科卒。1970年化学工学修士。旭硝子中央研究所研究員、米ニューヨーク州立大留学、英オックスフォード大招聘教官、スイス バッテル記念研究所研究員テクノ・エコノスト、仏ルノー公団未来商品開発室長を経て、1985年より産業ガス多国籍企業 仏エア・リキードの、米国ジェネラルマネジャー、エア・リキード・パシフィック(株)代表取締役、パリ本社でのシニア・エグゼクティブ(特命プロジェクト担当・CEO直轄IR統括責任者)を歴任。1999年より、経営戦略に特化した、欧州系コンサルティング会社Corporate Value Associates (CVA)のパートナー兼日本関連プロジェクト統括マネージングディレクター。これまでにフランスと日本の有力企業のCEOアドバイザーに就任。著書:『ミッション』『マイ・ビジネス・ノート』『自分力を高める』等多数。『Global Trend of Innovation in the IoT Era』と題する研究発表が、異文化経営学会賞(研究発表部門)を受賞(2017年)。