ドレフュス事件とその周辺の文学から出発した菅野賢治氏が2016年に上梓した『フランス・ユダヤの歴史』は、上巻で「古代からドレフュス事件まで」、下巻で「20世紀から現代まで」を扱った大著である(http://www.keio-up.co.jp/kup/gift/fj003.html)。特に下巻には、共和主義、キリスト教、ユダヤが形作る三角形が随所に顔をのぞかせている。ここから、現在のフランスに一つの問いを寄せておくことはできないか。かつて、ユダヤとキリスト教をつなぐ線分を底辺としてライシテを原則とする共和国の三角形を思考するという、世界のどこにも例を見ない精神の一大実験を可能にしたフランスにあって、なぜ今、ユダヤ、キリスト教にイスラームを加えた正三角形を底面とし、新時代にふさわしい、知的にして、どっしりと懐の深い共和主義の三角錐を構想できないはずがあろう。
日仏会館では11月にイラン出身のファラッド・コスロカヴァール教授(EHESS)を、2月にチュニジア出身のフェティ・ベンスラマ教授(Paris-Diderot)を招聘する。どちらもフランスにおけるムスリムの専門家なので、菅野氏にはフランスのユダヤに焦点をあてて話していただき、討論者がコメントし質問する。討論者の三浦は、フランス革命で解放され共和国に同化したはずのユダヤ系知識人の一部が、今日「ライシテ」をふりかざして反アラブ・反ムスリム化していることを危惧している。参照文献は Michel Wieviorka & Farad Khosrokhavar, Les juifs, les musulmans et la République, Robert Laffont, 2017.
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