間文化主義という政治哲学は、とりわけカナダのケベック州において練りあげられてきた。それは一方でフランス型の共和主義、他方で英米系の多文化主義の難点をともに克服しつつ、社会の統合と多様性の承認を両立させ、新たな「私たち」を構築しようとすることを目指す魅力的な概念だと言える。北米のフランス語圏の社会として「マイノリティ」の自覚を持つケベックでは、ナショナリズムなしでは将来の存続が危ぶまれるとの感覚が広く共有されている。そのケベックは、1960年代の「静かな革命」以降の大きな社会変動のなかで、多くの移民を受け入れてきたリベラルな社会でもある。本講演会の講師ジェラール・ブシャール教授は、間文化主義の最も有力な提唱者の一人として知られている。講演会では、間文化主義がケベックにおいてどのように生成してきたか、その特質とは何か、またどのような批判に直面してきたのかが語られる。ディスカッサントにお迎えするのは、戦後日本におけるネーションの主体の構築について粘り強く考えてきた文芸評論家の加藤典洋氏。日本の来歴と現状を踏まえながら、社会の統合と多様性の承認をどのように両立させることができるかを考える機会としたい。