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パトリック・ブシュロン編『世界の中のフランス史』(2017年)は、英米圏のグローバルヒストリーの潮流を踏まえつつも、グローバルとナショナルを接合した一般向けの開かれたフランス史として10万部を超える異例の成功を収めた。132人の歴史家が参加した同書の特徴のひとつは、フランス史における重要な出来事を、それが起きた年号で世界史の断面を共時的に切り出すようにしながら論じるスタイルである。それは、別の地理的歴史的文脈に身を置く研究者には、本書の問題意識を批判的に引き取り、ある年号に集約される主題をフランスの外の視点から語り直すことを促すものである。
本セミナーでは、1789年のフランス革命と1905年の政教分離法、およびその関連項目を取りあげ、同書がわれわれフランス研究者のみならず日本史研究者にとってどういう意味があるかを比較史的視点も入れて論じてみたい。
1789年と1905年をつなぐのは1989年、中国で天安門事件が、ドイツでベルリンの壁崩壊が、フランスでイスラムスカーフ事件が起こった革命二百周年の年である。三浦信孝は、同書のフランス革命期の描き方を、冷戦後のグローバリゼーションの中で揺らぐフランスの共和国アイデンティティ論争の文脈において振り返り、検証する。同書の執筆者には極東の専門家は入っておらず、1989年の項目には天安門事件も昭和天皇の死も入っていない。伊達聖伸は、1905年の政教分離法を基本法とする「ライシテ」の成立と変化の大枠を、国内的な争点がいかなる世界史的文脈に置かれているかという観点から提示する。「日本のライシテ」との影響関係については、戦前および戦後の政教体制との比較的考察のみならず、1905年法の制定が日露戦争と同時代であったことの意味も考えたい。
参考文献:三浦信孝・福井憲彦編『フランス革命と明治維新』(白水社、2019年)、伊達聖伸『ライシテから読む現代フランス』(岩波新書、2018年)
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