『日本文学史序説』(上1975, 下1980)は世界7ケ国語に翻訳されている加藤周一の主著。1300年にわたる日本文学の歴史をたどり、中国文学や西洋文学と比較対照しながら、そこに「変化と持続」を見出し、外国文化を移入する時代と、それを日本化する時代とが交互に繰り返し現れることを論証する。いわば「雑種文化論」の具体的例示が『日本文学史序説』だと言えます。
このような日本文学通史を、加藤は、どのような動機で書いたのでしょうか。それは戦争体験に根ざしている、と私は考えます。戦時下の多くの知識人は、当初は戦争賛成ではなかったが、次第に戦争賛成者が増えていき、ついに戦争に反対を唱える人はほとんどいなくなった。なぜそういう現象が起こるのか、という問題を考えるため、文学作品を通して、古代以来20世紀までの日本人に共通するものの考え方を明らかにしたいと考えた、と思われます。(講師・記)
鷲巣力(わしず・つとむ)
1944年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、平凡社入社。「林達夫著作集」「加藤周一著作集」を編集し、月刊『太陽』編集長を経て、同社取締役。1992年同社を退社しフリージャーナリストとなる。現在、立命館大学加藤周一現代思想研究センター長。主な著書に『自動販売機の文化史』(集英社新書)、『公共空間としてのコンビニ』(朝日新聞出版)、『加藤周一を読む』(岩波書店)、『「加藤周一」という生き方』(筑摩書房)、『加藤周一はいかにして「加藤周一」となったか』(岩波書店)など。2019年の日仏会館・立命館大学共催の加藤周一生誕百年記念国際シンポジウム記録論文集(共編)が近刊予定(下記参照)。
『加藤周一を21世紀に引き継ぐために 加藤周一生誕百年記念国際シンポジウム講演録』(水声社、9月15日頃発売)