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人文社会系のフランス研究にかかわる若手研究者3名の講演を中心とするセミナーです。分野横断型の相互啓発セミナーとして、夏恒例の行事となりました。講師役を務める3人には、これまで進めてきた専門的な研究に基づきながら、その成果や現在の関心のありかを、専門分野を異にする研究者・大学院生・学部生・一般聴衆などにも、よく理解できるように語っていただきます。同世代の若手研究者どうしの親睦を図る機会でもあります。今回は、歴史学、文学・思想からのアプローチになります。どうぞふるってご参加ください。
【プロフィール・発表要旨】(発表順)
●齋藤由佳(さいとう・ゆか)
アンジェ大学「社会・歴史・地理」大学院博士課程修了(歴史学)。獨協大学外国語学部専任講師。専門はフランス近世史。主な論文に「Goût et origine. Ambiguïté du terroir dans l’œuvre de Grimod de La Reynière」(『Dix-huitième siècle』52号、2020年)、分担執筆著書としてFood History: A Feast of the Senses in Europe, 1750 to the present(3章「The elevation of taste and the senses in the work of Grimod de La Reynière (18th-early 19th century)」を担当、Routledge、2021年)等がある。
「レストラン批評の誕生と味覚の歴史」
ミシュランガイドやゴ・エ・ミヨに代表されるフランスのレストラン批評は、店の評判や消費者の選択に大きな影響を与えるメディアとして、今日世界的な知名度を誇っている。こうしたレストラン批評が誕生したのはナポレオン一世の治世下、19世紀初頭のことだった。これは、「人それぞれで議論は不可能」と考えられがちだった味覚の世界に新たな評価と表現の方法を導入する画期的な出来事だった。本報告は、レストラン批評の先駆けであるグリモ・ド・ラ・レニエール著『美食家年鑑』(1803-1815年)に着目し、なぜこの時代に食の批評というメディアが生まれたのか、またそれが当時どんなインパクトを持ったのかを、味覚の歴史という観点から明らかにする。
●須藤輝彦(すどう・てるひこ)
東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程修了(博士/文学)。カレル大学(プラハ)とソルボンヌ大学に学ぶ。東京大学助教。ミラン・クンデラを中心に、チェコと中央ヨーロッパおよび啓蒙期の文学や思想に関心がある。著書に『たまたま、この世界に生まれて──ミラン・クンデラと運命』(晶文社)、訳書にアンナ・ツィマ『シブヤで目覚めて』(河出書房新社、阿部賢一との共訳)などがある。
「ミラン・クンデラと運命──チェコとフランスのあいだで」
2022年に提出した博士論文を大幅に改稿し、本年3月に出版された拙著『たまたま、この世界に生まれて──ミラン・クンデラと運命』は、運命という主題を通して、メランコリー、アイロニー、ロマン主義、啓蒙、コスモポリタニズム、悲劇、反出生主義などといった重要なサブテーマとともに、チェコと中央ヨーロッパが抱える歴史的困難、さらには20世紀における社会主義の挑戦と失墜といった問題を論じた著作である。この研究に基づき、本発表ではとくにチェコ(および20世紀中央ヨーロッパ文学)とフランス(および18世紀ヨーロッパ文学)のはざまで創作したクンデラの姿に迫りたい。
●中田麻理(なかた・まり)
立教大学博士課程修了。現在、山梨大学ほか非常勤講師。専門は20世紀フランス文学。論文に「ジャン・ジュネにおける黒人像の起源と展開をめぐって―『花のノートルダム』を中心に」(『フランス語フランス文学研究』第113号、2018年)などがある。
「ジャン・ジュネのクィア・イマジナリー」
フランス文学には同性愛を明示的な主題にした作品は多く存在します。その中でも特にジャン・ジュネの作品が際立つのは、現実と地続きでありつつもゲイ中心的な別世界を文学作品において創出したためではないでしょうか。異性愛中心的な世界では、同性愛者の存在は不可視化されるか、「異常」「例外」とみなされますが、1940年代に発表されたジュネの連作では、物語は常に同性愛者たちを中心に展開し、異性愛者の存在は後景に退くのです。本発表では家族、神話、オム・ファタ―ルなどをキーワードに、監獄や少年院の単一的性の世界を舞台に展開する、ジュネ固有の想像力の世界を紹介します。
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