アンリ・デュティユー(1916-2013)の弦楽四重奏曲《こうして夜は》Ainsi la nuitは、20世紀を代表する室内楽の名作として知られています。今回、この作品における作曲コンセプトとしての「記憶」の形成に焦点を当てます。特に、記憶を媒介とした音楽の構造的な工夫や、ユニークな「補足部」を通じた時間操作の仕組みについて検討します。これにより、作品全体がどのように時間と記憶の交錯を表現しているかを明らかにします。また、デュティユーがプルースト文学に触発されながら、どのように独自の音楽的言語を構築していったかについても議論します。さらに、実際の演奏を通じて、こうした議論がどのように音楽の中で具体化されるのかを浮かび上がらせ、この傑作の魅力に新たな光を当てることを目指します。
講師プロフィール
藤田茂
フランス政府給費留学生としてパリ大学ソルボンヌ校(現・ソルボンヌ大学)に学び、東京芸術大学音楽研究科博士後期課程を修了。博士(音楽学)。フランス近現代音楽を中心に研究を展開し、国内外の学術雑誌への寄稿や国際会議の運営に携わる。ブリュッセル王立音楽院では短期招聘教授として音楽分析の講義を担当。現在、東京音楽大学教授。メシアンやデュティユーに関する専門論文の執筆に加え、国内外のオーケストラ公演の曲目解説も定期的に寄稿している。
演奏者プロフィール
橘和美優(ヴァイオリン)
2023年ロン=ティボー国際音楽コンクール第5位受賞。東京藝術大学を首席卒業後、東京音楽大学大学院に特別特待奨学生として在籍中。第2回モーツァルト国際音楽コンクール第2位、第89回日本音楽コンクール入選、第19回東京音楽コンクール第2位、聴衆賞、第8回仙台国際音楽コンクール第5位、第9回宗次エンジェルヴァイオリンコンクール第1位など受賞歴多数。使用楽器は宗次コレクションより貸与されたA.Stradivari“ex.Rainville”1697年製。塚本禎(ヴァイオリン)
神奈川県藤沢市出身。東京音楽大学及び同大学院を給費奨学生として卒業。2024年第1回フランコ・グッリ国際音楽コンクール(ローマ)にて第一位。それに伴い藤沢市生涯学習特別貢献賞受賞。これまでに小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト、小澤国際室内楽アカデミー奥志賀、サイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管弦楽団等に参加。中村静香、店村眞積、フェデリコ・アゴスティーニ、篠崎史紀の各氏に師事。山本里真(ヴィオラ)
大阪府出身。洗足学園音楽大学にオーケストラ特待生として入学。ヴァイオリンで卒業後ヴィオラに転向し、東京音楽大学大学院修士課程を修了。現在、東京音楽大学大学院音楽研究科研究生。これまでにヴァイオリンを青山徹、水野佐知香の各氏、ヴィオラを大野かおる氏、室内楽を大野かおる、安藤裕子、羽川真介の各氏に師事。2023年度東京音楽大学甲種奨学生。第26回日本演奏家コンクール弦楽器部門一般Aの部第2位入賞。小粥麻莉菜(チェロ)
3歳よりチェロを始める。臼井洋治、印田陽介、河野文昭、原田禎夫、松本ゆり子の各師に、現在は山本裕康、苅田雅治の各師に師事。第33回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール奨励賞。 市川市文化振興財団第33回新人演奏家コンクール優秀賞。第77回全日本学生音楽コンクール東京大会第3位入賞。全国大会入選。東京音楽大学器楽専攻を卒業。現在東京音楽大学大学院研究生として在学中。