「フランス」という国も、現在とは異なる様相を呈していた中世。フランスから周辺諸国へ数多くの修道士が派遣されていました。美術や建築にその影響が顕著です。11世紀、ノルマン征服前後のフランスとイングランドでは、バイユーのタピスリーや建築、写本にその交流がつぶさに見られます。12世紀、「カベスタニ―の工匠」の名で知られるロマネスクの名匠は、南フランスからカタルーニャ、イタリアへ制作しながら旅を続けました。13世紀、シエナ大聖堂やカステル・デル・モンテなどには、シトー会の建築活動の痕跡が見られます。3つの例を軸に、中世におけるフランスと周縁諸国の美術交流のあり方について考えてゆきます。
金沢 百枝
東京都生まれ。’97年、東京大学大学院理学系研究科植物学専攻にて博士号(理学)、2007年同大学大学院総合文化研究科にて博士号取得。’00~’01年ロンドン大学付属コートールド美術史研究所留学。専門はロマネスク美術。著書『ロマネスクの宇宙―ジローナの《天地創造の刺繍布》を読む』(東大出版会、2008年)。2011年、島田勤二賞受賞。共著に『イタリア古寺巡礼シチリア→ナポリ』(新潮社)2012年など。 新潮社とんぼの本HPにて【キリスト教美術をたのしむ】連載中。東海大学文学部ヨーロッパ文明学科准教授。