2015年のパリにおけるCOP21が明らかにしたように今人類は環境破壊による存亡の危機に直面している。なぜ我々の文明がこのような事態に至ったのか?その根源を解明しなくてはならない。
17世紀の科学革命を経験したヨーロッパにおいて19世紀から20世紀にかけて頂点に達した機械論的科学主義は、対象を観察者の外に置く主客二元論に立脚し、進歩の概念と物質的な文明論を生みだした。自然は非生命化され、人類のための資源となった。今日でも二つのイデオロギーが対立している。文明のグローバル化の中にあくまでも「経済的成長」を追及する立場と、反対にもろもろの文化伝統の中に自然との共生を認め、文化の「多様性」を守ろうとする立場である。こうした対立思想の背景には、科学と文化伝統は本質的に相容れず、越えがたい深淵に阻まれている、といういわれなき思い込みがあった。
この思い込みの間違いに一石を投じたのが1986年のユネスコによる「ヴェニス宣言」である。それは、最先端の科学は自らの探求の過程で世界の文化伝統と再び出会う段階に達した、と告げたのである。それに続く知的対話はTransdisciplinaryというアプロ―チを重ね、1995年の「東京からのメッセージ」となって結実する。そこには曼荼羅の思想に近い量子物理学からの存在論が披露されている。科学と文化の対話である。
東京という和のトポスが、クストーという地球環境学者の存在と共に、2001年の文化の多様性に関する世界宣言に一役買っている。「通底する価値」、「地球倫理」、「未来世代の権利」という新しい考え方がこの流れの中に生まれてきた。
服部英二
1934年生まれ。京都大学大学院博士課程修了。フランス政府給費留学生としてパリ大学(ソルボンヌ)博士課程留学。1973年よりユネスコ・パリ本部勤務。首席広報官・文化事業部長等を歴任。94年退官後も2代のユネスコ事務局長の顧問・特別参与を務める。1996年、仏政府よりパルム・アカデミック勲章・オフィシエ位授与。日仏教育学会会長・地球システム・倫理学会会長、国際比較文明学会副会長等を務める。著書に『文明の交差路で考える』『文明間の対話』『文明は虹の大河』等、近刊に『未来世代の権利、地球倫理の先覚者J-Yクストー』(藤原書店)