本講演でははじめに、歴史が歴史学という一つの学問分野になったのは、民主主義社会の公共空間でたえず議論される記憶の問題と距離をとったからであることを確認する。記憶は過去の人間を価値判断するが、歴史学は過去の人間の行動を理解し説明することを任務とする。歴史学のこうした学問的姿勢はしばしば、「象牙の塔」に閉じこもり役にも立たない知識を生産するとして歴史家を非難する者たちから批判される。私はこうした批判の正しさは認めるが、歴史学は文化の世界の他のアクターたちとの連携を築くことで、歴史学の特徴である客観性の要請と歴史学の社会的機能とを和解させることが可能であることを示そうと思う。最後に、私自身が博物館や演劇や映画の世界と協働作業をした経験のいくつかを紹介して結びとする。
ジェラール・ノワリエル
1950年、ナンシーに生まれる。歴史学アグレジェ、文学博士。パリ高等師範学校教授(1986年〜1994年)。国立社会科学高等研究院研究ディレクター(1994年から)。プリンストン大学高等研究院会会員。学術誌Genèses. Science sociales et Histoire共同創立者・編集委員