個人と普遍の直接的結合を説く大正期の普遍主義的個人主義に対して、九鬼周造は「具体」を把握しようとしました。九鬼の作品においては、諸々の「具体」概念を特定できますが、それらは総合的に「我々」と呼ぶことができ、共同性と同一性の狭間で揺れ動いています。本発表では、九鬼の著作を単に内在的に解釈するだけでなく、それを歴史的背景に関連づけ、「我々」とは何か、そもそも「我々」とは誰か、という問題を考えながら、1920〜30年代の日本思想史をも検討したいと思います。
画像 1923年頃 ドイツ滞在中の九鬼周造(京都 ―燈園 燈影舎所蔵)
シモン・エベルソルト(Simon EBERSOLT)
フランス国立極東学院 博士研究員、日本思想研究チーム(IFRAE)共同責任者。専門は日本の哲学と知性史。2017年発表の博士論文「偶然と共同―日本の哲学者、九鬼周造」により人文社会科学系若手研究者賞特別賞、パリ大学連盟主催によるリシュリュー賞、フランス日本研究学会主催による岡松慶久賞、渋沢・クローデル賞を受賞。同論文の刊行はVrin社より予定されている。