洋の東西を問わず、古代の物語文学においては神話的なものが重きをなします。世の始まりと民族創生の物語は神々や超人的英雄を主人公とし、超自然的、魔術的要素に満ちています。近代科学思想によって断罪された神話は、20世紀の新しい心理学や文化人類学を通じてその豊饒さが再認識されました。また、神話がはらむ祖型的象徴性は、時代を問わず、芸術・文学に尽きせぬ霊感を与えてきました。ギリシア神話・宗教史研究で知られるフィリップ・ボルジョー氏と『古事記』の現代日本語訳を手がけた池澤夏樹氏が、西洋古典学者逸身喜一郎氏の司会で、古代文学の現代的意味を掘り起こします。
講師プロフィール
フィリップ・ボルジョー (Philippe Borgeaud, 1946- 、ジュネーヴ大学名誉教授)
専門はギリシア神話、古代宗教史。主著に、Recherches sur le dieu Pan, Rome, 1979 (英訳 The Cult of Pan in Ancient Greece, Chicago & London, 1988) ; La Mère des dieux. De Cybère à la Vierge Marie, Seuil, 1996(英訳 Mother of the Gods, Baltimore, 2004) ; Aux origines de l’histoire des religions, Seuil, 2004 ; La Pensée européenne des religions, Seuil, 2021 など。
池澤夏樹(Natsuki Ikezawa, 1945- 、小説家、詩人、翻訳家)
小説作品に『スティル・ライフ』(1987)『マシアス・ギリの失脚』(1993)、『また会う日まで』(2023)など。個人編集による世界文学全集(全30巻、2007-11)、日本文学全集(全30巻、2014-17)[ともに河出書房新社]を実現した。西洋文学の翻訳のほか、『古事記』の現代語訳(河出書房新社、2014)を手がけ、『古事記ワールド案内図』(同、2023)を著した。
司会者プロフィール
逸身喜一郎(Kiichirô Itsumi, 1946- 、東京大学名誉教授)
専門は西洋古典学、とくにギリシア・ラテン詩の韻律法。主著に『ソフォクレース『オイディプース王』とエウリーピデース『バッカイ』』(岩波書店、2008)、Pindaric Metre’ The Other Half’ (Oxford University Press, 2009)、『『ラテン文学を読む ウェルギリウスとホラーティウス』(岩波書店、2011)『ギリシャ神話は名画でわかる なぜ神々は好色になったのか』(NHK出版新書 2013)、など。