・1日目(5月17日(日))についてはこちらをご覧ください。
一般に、文学者や芸術家は歳をとるにつれて寡作になり、やがて創作の場から身を引くものだと考えられています。しかし、レンブラント晩年の自画像を称えたゲーテ、プーサン最晩年の絵に感知される手の震えを「すばらしい時の震え」と称えたシャトーブリアン、あるいは、70歳はなお未熟で、100歳にしてようやく神妙な境地に到達すると言い放った北斎のように、晩年固有の創造性に注目する見方もあります。20世紀には、青年期や壮年期とは断絶した境地と技法を示す晩年(後期)様式が未来を予告する力をはらむ、という考え方が顕著になります。ベートーヴェン晩年の弦楽四重奏曲にシェーンベルクの作品の先駆けを見るアドルノやサイードの音楽史観がその一例です。
晩年スタイルと身体的な老いとが相関的であるのは明らかですが、老いればだれもが晩年スタイルを獲得するわけではなく、逆に、晩年スタイルは高齢の芸術家の専有物でもありません。本シンポジウムでは、美術、文学、思想といったジャンルに根ざす晩年スタイルに加えて、夭折と晩年(後期)スタイルの関係や、晩年スタイルがはらむ現代性(モデルニテ)への志向をジャンル横断的に考察します。
プログラム
1日目: 5月17日(土)
- 13:00 開会の辞
- 中島厚志((公財)日仏会館理事長)
- 13:10 趣旨説明
- 中地義和((公財)日仏会館副理事長)
- 13:30 第1部:老年の創造性――マティスとピカソ
- 司会:トマ・ガルサン(日仏会館・フランス国立日本研究所所長)
- アントワーヌ・コンパニョン(アカデミー・フランセーズ)
- 「マティスはあらゆる危険を冒して」
- 河本真理(日本女子大学)
- 「ピカソとマティスの晩年スタイル――新たな分野としてのセラミックと切り紙絵」
- 質疑応答
- アントワーヌ・コンパニョン(アカデミー・フランセーズ)
- 司会:トマ・ガルサン(日仏会館・フランス国立日本研究所所長)
- 14:50 休憩
- 15:10 第2部:老齢に達しなかった芸術家の晩年(後期)スタイルを語ることは可能か
- 司会:中地義和
- アンドレ・ギュイヨー(ソルボンヌ大学名誉教授)
- 「ランボー、二十歳の黄昏に」
- トマ・ガルサン(パリ・シテ大学)
- 「三島由紀夫における小説の考察と晩年の作風」
- 宮澤淳一(青山学院大学)
- 「グレン・グールドの最後の4年間――伝記が書かれるということ」
- 質疑応答
- アンドレ・ギュイヨー(ソルボンヌ大学名誉教授)
- 司会:中地義和
- 17:10 休憩
- 17:30 第3部:知識人の晩年スタイル
- 司会:塚本昌則
- 澤田直(立教大学、(公財)日仏会館)
- 「実存主義者の晩年スタイル――ボーヴォワールとサルトルを中心に」
- 工藤庸子(東京大学名誉教授)
- 「大江健三郎とエドワード・W・サイード――「晩年性(レイトネス)」をめぐって」
- 質疑応答
- 澤田直(立教大学、(公財)日仏会館)
- 司会:塚本昌則
2日目:5月18日(日)
- 13:00 第4部:小説家の究極の形式
- 司会:澤田直
- 塚本昌則(東京大学、(公財)日仏会館)
- 「「ショパンの戦略」――クンデラ晩年のフランス語小説をめぐって」
- 中地義和(東京大学名誉教授)
- 「老いと小説の変容――古井由吉の場合」
- 質疑応答
- 塚本昌則(東京大学、(公財)日仏会館)
- 司会:澤田直
- 14:20 休憩
- 14:40 第5部:晩年スタイルと現代性(モデルニテ)の追求
- 司会:中地義和
- アンリ・セッピ(ソルボンヌ・ヌーヴェル大学)
- 「昇る太陽か「瀕死の太陽」か――デカダンス文学と晩年スタイル」
- パトリック・ドゥヴォス(東京大学名誉教授)
- 「断絶か継続性か――伝統的舞台芸能の変形としての「舞踏」」
- 野平一郎(東京音楽大学学長)
- 「フランスの作曲家たちの晩年スタイル」
- 質疑応答
- アンリ・セッピ(ソルボンヌ・ヌーヴェル大学)
- 司会:中地義和
- 16:40 休憩
- 17:00 総括討議
- 17:40 閉会
- 18:00-19:00 ミニ・コンサート
- 解説:野平一郎
- 演奏:クアルテット・アルモニコ 菅谷早葉(ヴァイオリン)、生田絵美(ヴァイオリン)、阪本奈津子(ヴィオラ)、松本卓以(チェロ)
- 作曲家晩年の弦楽四重奏曲――ベートーヴェン、シェーンベルク、フォーレ