第34回 フランス側渋沢・クローデル賞
フランス側渋沢・クローデル賞
アルノ・グリヴォ 氏
『日本の政治体制の再編-1990年代以降の政治システムにおける官僚制』
博士論文
受賞者の言葉 |
この度渋沢・クローデル賞を頂き、誠にありがとうございました。まず、この賞の受賞者で私の指導教員であるエリク・セズレ先生や神戸大学に留学をしていた間に大変貴重なアドバイスをくださった阪野智一先生にお礼申し上げます。そして、博士論文の執筆作業に苦戦していた際に、日常的に支えてくれた家族や友達を心より感謝します。 日本の政治・法律に関心を持つようになったのは法学部を卒業した後、パリ第7大学の日本語学科に編入したほぼ10年前のことです。修士論文は当時の「ねじれ国会」について書き、博士課程に進学したのはちょうど政権交代が起きた直後でした。当時民主党が「政治主導」や「脱官僚依存」などを掲げていたように、今までの日本政治は所詮官僚に牛耳られており、民主主義に反しているという批判が強かったです。実は、そういった「政官関係」を主題にした研究は日本のみならず、英国、米国、フランスにも数多くあります。その中で、本論文で特に焦点を当てたのは、政治主導を追及し、1990年代から導入された様々な政治・行政改革が行われた以降の政官関係の変容です。換言すれば、同改革によって政策の決定過程において政府がリーダーシップを発揮することに成功したのか、そして政治家と官僚は行動様式を変えたのかという問いに答えようとしました。 紙幅の都合上、本研究から生み出された多様な結論を二点にまとめさていただきます。第一に、1990年代以降の政治システムにおいてみられる変化は、確かに改革なくしては実現できなかったけれど、改革は必須条件であっても十分条件ではではありませんでした。つまり、改革は単なる道具に過ぎず、それを上手く使いこなす大工(=政治家)もいれば、そうでない大工もいます。そして、使いやすい政治的環境もあれば、そうでない場合もあります。要するに、政治主導の確立には制度改革以外の、多種多様な要因を配慮すべきだと実証しました。 第二に、政治システムの変化を理解するには「政対官」という図式から脱出する必要があることです。「政治家=改革派」・「官僚=抵抗勢力」というポピュリズムに寄った単純すぎる考え方は誤っており、政府が「改革派官僚」と協働することで与党議員の抵抗を乗り越えることすらあるからです。 今回の受賞を励みとし、博士論文を出版できるよう力を尽くし、研究者の道を歩み続けられるように頑張って参りたいと思います。 |