奨励賞

宮下 雄一郎

『フランス再興と国際秩序の構想―第二次世界大戦期の政治と外交』

勁草書房、 2016 年

受賞者の言葉

 この度、渋沢・クローデル賞奨励賞を賜り、公益財団法人日仏会館、共催されている読売新聞社、そして私を支えてくださる多くの方々に御礼申し上げます。

 本書の基層には、正統性と国際秩序という政治学の範疇に属する問題意識がありますが、歴史学の方法論によって議論を展開しました。

 1940年6月、フランスは早々と敗れ、フィリップ・ペタン元帥を首班とするヴィシー政府に加え、その正統性を否定するシャルル・ド・ゴール将軍率いる自由フランスが誕生しました。「フランス」という括弧つきの国際政治アクターに引き裂かれたのです。ド・ゴールは敗北の屈辱を払拭し、大国の地位を回復することを目指しました。そのために戦後に夢を託し、第一にフランスを代表する「正統なアクター」としての地位をヴィシー政府から奪取し、第二に連合国の戦後国際秩序の構築に向けた動きに関与し、その秩序の中での大国再興を目指しました。

 本書が力点を置いた国際秩序構想をめぐっては、その内容のみならず、それをどれだけ現実化させることができるかという点に政治力学が垣間見えます。ド・ゴール等は、ベルギーなどとの関税同盟を軸とした「西ヨーロッパ統合」構想や、大国との同盟によって秩序を構築する「二国間条約網」の構築を追求しました。しかし、構想は理想でもあり、それを実現させることは容易ではありません。大国間の権力政治にフランスも巻き込まれました。戦後に向けた議論を主導したアメリカは、フランスが追求したいずれの構想でもなく、国際連合へとつながる普遍的国際機構構想の実現を目指し、地域統合構想には批判的でした。

 自らの理想が実現できないときへの対応に、国際政治アクターの「外交力」がみられます。フランスは、「西ヨーロッパ統合」構想を放棄し、普遍的国際機構構想のなかで「二国間条約網」構想を残すことに尽力しました。国際連盟の機能不全を経験したフランスはその後継機構に懐疑的でした。しかし、「二国間条約網」はイギリスやソ連との軍事協力によって秩序を維持するという大国間協調主義に基づく構想でもあったのです。これは「五大国」の優位を前提とした国際連合にも通じるものであり、フランスはいち早くこの構想に順応することで大国の地位を再興する道を選択したのです。「独自外交」というイメージの強いフランスであり、ド・ゴールですが、極めて柔軟に対応したことで大国としての地位を取り戻したことが見えてきます。

 今後も政治学と歴史学の双方に目配せしながら国際関係論の研究に邁進していく所存です。引き続きご指導賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。