フランス側渋沢・クローデル賞

リュシアン=ロラン・クレルク

『日本におけるアイヌの社会文化的変容』

博士論文

受賞者の言葉

 この度、第35回渋沢・クローデル賞を受賞したことを大変光栄に思います。審査員の方々、日仏会館、読売新聞社の皆さまに心より御礼申し上げます。また、指導教官であるオギュスタン・ベルク先生、わたしを日本に受け入れてくださった佐藤淳二先生、そしてジャン・フランソワ・サブレ先生に対しまして、適切なご助言と暖かいご支援を賜りましたことを深く感謝いたします。

 わたしが初めてアイヌの存在を知ったのは、少年の頃に読んだケネス・ホワイトの著作『野の白鳥』を通じてでした。そこに書かれたアイヌの描写は印象的で、その後のわたしの道程を決定付けるものとなりました。抵抗を通じたアイヌの社会文化的変容という本研究の主題は、わたし自身が実際にアイヌモシリに暮らすようになり、さまざまな問題を発見していく中で、次第に明確な形をとってきたものです。

 フィールド・ワークを重ねていくうちに、暴力と謀略とがうずまく植民地主義的状況のなか、民族の存続を脅かす脅威に対し、アイヌがどのように抵抗したのかが次第に明らかになってきました。アイヌは、民族の英雄を祭る文化社会的な儀礼の実践などを通じて、1457年にまで遡る抵抗の記憶を共有しながら、異文化受容に対抗する戦略を練り上げてきたのです。アイヌはまた、差別的な同化主義的政策によって弱体化された先住民としての特殊性を踏まえ、法律の改正を要求してきました。その結果、1997年に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及および啓発に関する法律」が制定され、1899年の制定以来長きにわたりアイヌを日本社会から疎外してきた「北海道旧土人保護法」が廃止されるに至りました。さらにアイヌは世界の動きにも通じ、他の先住民族と連携しながら異文化受容と文化再興の問題に取り組んできたのです。

 植民地化とそれに続くポストコロニアル的な新秩序のなか、さまざまな場面で抵抗運動を繰り広げてきたアイヌの指導者たちに象徴されるように、アイヌは活力に満ちた独自の歴史を有しています。また、アイデンティティの再構築という困難な課題と結びついた複雑な諸問題に直面しながら、常に民族の自律としかるべき地位の獲得とを目指して戦ってきた点において、アイヌの歴史は、今日、文化の存続のために戦う他の多くの少数民族にとって、抵抗運動のためのモデル、インスピレーションの源泉ともなりえるのです。

 この度の受賞を励みとしながら、わたしは今、本研究で得られた成果を一冊の本にまとめる予定でいます。そして可能であれば、その本が日本語に訳されることを願っています。