第36回(2019) 受賞作品
本賞 |
該当無し |
|
奨励賞 |
石川 学 ジョルジュ・バタイユ 行動の論理と文学 東京大学出版会、2018 |
|
奨励賞 |
梅澤 礼 囚人と狂気 一九世紀フランスの監獄・文学・社会 法政大学出版局、2019 |
|
フランス側 |
シモン・エベルソルト 偶然と共同―日本の哲学者、九鬼周造 博士論文 |
審査報告
渋沢・クローデル賞審査委員長
三浦 篤
第36回渋沢・クローデル賞の審査は、日仏会館学術委員に外部審査委員を加え、本年5月14日に第一次審査、6月14日に第二次審査を行い賞作2点を決定した。応募作は全13点で、研究著作9点、翻訳書4点であった。
近年の顕著な傾向として、人文科学、社会科学分野の博士論文を書籍化した著作の増加があるが、本年も文学、歴史、思想、美術史、政治学など多様な分野から、高度な専門性を有する力作が集まった。また、渋沢・クローデル賞では研究著作のみならず翻訳書も顕彰に値する重要な業績と見なしている。近年は翻訳の受賞作が少ないが、今後の応募を期待したい。また審査では学術性と一般性のバランスも意識した。受賞作は高度な専門性を備えた研究書が多いが、一般読者にとっても魅力的で、接近可能な作品であるという条件も望ましい。学術性を担保しつつも、柔軟な受賞基準を今後も保持したい。
今回は第1次審査で研究書3点、翻訳書1点の計4点に絞り込み、第2次審査において審議を重ねた結果、最終的に2つの受賞作を決定した。ただし、本賞は該当作なしとし、拮抗する評価を得た2点に奨励賞を授与するという結果となった。通常、渋沢・クローデル賞は本賞と奨励賞が授与されるが、両著作ともに大変優れた研究成果であり、評価に関しても甲乙つけがたかった。2作に本賞を与えるという選択肢がないこと、両著作とも課題もあると判断したことなどから、今回は奨励賞2点とした。
石川学さんの『ジョルジュ・バタイユ行動の論理と文学』は、20世紀前半に活躍した思想家、小説家のジョルジュ・バタイユを取り上げ、その思想形成の道筋を精緻に跡づけた力作である。非合理や情動と結びつけられがちなバタイユが、当時の最先端の学知や理論を貪欲に摂取し、戦前、戦後の政治状況に対面する己の「行動と文学の論理」へといかに転化していったのかを、テクストの丁寧な読解を通じて見事に提示している。審査ではバタイユという魅惑的な研究対象を冷静に論じる姿勢や、明晰かつ濃密な日本語で叙述していくさまを賞賛する声があった。専門の離れた審査委員から、難解に見えるバタイユを門外漢にも理解させた手腕を評価する声があったことも付け加えておく。
同じく奨励賞を受賞された梅澤礼さんの『囚人と狂気19世紀フランスの監獄、文学、社会』には、研究書でありながら思わず読みふけってしまうような面白さがあった。歴史学と文学を架橋する、社会史と文化史を同時に視野に収める、文字通り学際的な研究、領域横断的な労作である。審査委員会では、既存の研究を的確に咀嚼しながら膨大な資料を渉猟し、独自の観点から学際研究の成果をまとめた功績が高く評価された。「囚人、監獄、狂気」というシビアなテーマに才媛が果敢に挑戦した勇気を賞賛する意見があり、フランスの大学での博士論文をもとに日本の一般読者にもアピールするリーダブルな著作に仕上げた手腕を高く評価する声もあったことを記しておく。
以上、本年も将来性豊かな二人の若い研究者に渋沢・クローデル賞を授与できた。両受賞者の今後のご活躍を心より祈念しつつ、審査委員会を代表してご報告する次第である。