第37回(2020) 受賞作品
本賞 |
該当無し |
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奨励賞 |
御園 敬介 ジャンセニスム 生成する異端―近世フランスにおける宗教と政治 慶応義塾大学出版会、2020 |
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奨励賞 |
須藤 健太郎 評伝ジャン・ユスターシュ 映画は人生のように 共和国、2019 |
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奨励賞 |
髙木 麻紀子 ガストン・フェビュスの『狩猟の書』挿絵研究 中央公論美術出版、2020 |
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フランス側 |
該当無し |
審査報告
渋沢・クローデル賞審査委員長
三浦 篤
第37回渋沢・クローデル賞の審査は、日仏会館学術委員に外部審査委員を加えて、2020年5月8日に第一次審査を、6月9日に第二次審査を行い、受賞作3点を決定いたしました。応募作は全13点で、内研究著作が10点、翻訳書が3点でした。
2020年もまた、人文科学、社会科学分野の充実した研究著作の応募が多数を占めるという傾向が続いています。長年の調査研究をまとめた清新な博士論文が書籍化されるのは、この出版不況の下では喜ばしいことであり、本年の場合、文学、思想、歴史、美術史、映画、政治学、人文地理学等々、多彩な分野から労作が集まりました。なお、今回受賞にはいたりませんでしたが、翻訳書の応募が一定数あることは今後に期待を抱かせますし、選書や新書のような啓蒙的著作の応募もまた待ち望むところです。高度な専門性と魅力的な一般性という条件を両立させるのは容易ではありませんが、審査委員会としては、学術性を担保しつつも、柔軟な受賞基準を保持したいと考えています。
今回は第一次審査で研究書4点に絞り込み、第2次審査において審議を重ねた結果、最終的に3点の受賞作を決定いたしました。ただし、本賞は該当作なしとし、拮抗する評価を得た3点に奨励賞を授与するという結果になったのです。通常、渋沢・クローデル賞は本賞と奨励賞が授与されますが、3つの著作ともに各分野における優れた研究成果であり、評価に関しても甲乙つけがたく、かつ各々一定の課題を持っているという判断から、今回は敢えて奨励賞3点と決定した次第です。
御園敬介さんの『ジャンセニスム生成する異端—近世フランスにおける宗教と政治』は、17世紀にカトリック内部で「ジャンセニスム」が異端として生成するプロセスを、反ジャンセニストの側から逆照射するという独創的な視点で解明した力作です。精度の高い資料調査と緻密な読解に基づく論証には大いに説得力があります。政治との接点や思想史的な分析に厚みが出れば、さらなる飛躍が期待されることでしょう。
須藤健太郎さんの『評伝ジャン・ユスターシュ映画は人生のように』は、渋沢クローデル賞を初めて受賞する映画関連著作です。ポスト・ヌーヴェルヴァーグの神話化された監督ユスターシュに関して、関係者への聞き取りと文献探索を徹底した上で、精緻な作品分析がなされている点が高く評価されました。逆に、評伝の部分の物足りなさや軽快な文体への留保もありましたが、映画評論の分野を切り開ける新たな才能の萌芽を認める点で審査委員は一致しました。髙木麻紀子さんの『ガストン・フェビュスの『狩猟の書』挿絵研究』は、『狩猟の書』の49写本について精細なカタログを作成し、写本挿絵を網羅的に分析して、その図像的、造形的特質を歴史的に位置づけた学術性の高い研究書です。14,15世紀の世俗彩色写本におけるイメージの変移を解明した見事な成果を認めつつも、挿絵研究に特化した限界もあり、今後の総合的研究への期待を込めて奨励賞を授与することとしました。
以上のように、本年も将来性豊かな三人の若い研究者に渋沢・クローデル賞を授与することができたことを嬉しく思っております。受賞者の今後のご活躍を心より祈念しつつ、審査委員会を代表してご報告申し上げる次第です。